業界トピックス2020.10.18
法務DD(デューデリジェンス)とは、意思決定に影響を及ぼす法律上の問題点・リスク・トラブルを調査すること

会社の全国展開や世界進出、事業拡大のためにM&Aが実行されることが増えています。

最近では新型コロナウイルスによる打撃を乗り越えるためにM&Aが用いられることもあります。

そんなM&Aに法務DDは必要不可欠な手続きです。

この記事では法務DDや「DD」の意味や語源、実務的な内容まで解説します。

法務DD(デューデリジェンス)とはM&Aに伴う法律上の問題点の調査のこと

法務DDとはM&Aの実施にあたり、関連当事者が意思決定に影響を及ぼす法律上の問題点・リスク・トラブルを調査することです。

M&Aとは合併(Merger)と買収(Acquisition)を合わせた言葉で、企業買収・企業再編を広く指します。

法務DDによってM&Aを実行するか否か、いかなる条件で実行するかを判断する資料を収集します。

一般的には買主側企業が売主側企業を調査することが多いですが、売主側企業が買主側企業を調査したり、売主側企業が自分自身の問題点を調査する場合(Seller’s Due Diligence)もあります。

調査の対象は、

  • 株式・株主
  • 親会社・関連企業
  • 資産、知的財産
  • 契約
  • 人事・労務
  • 紛争・争訟

など様々です。

企業の法務部が法務DDを行うこともありますが、企業法務系法律事務所のビジネス弁護士に依頼するのが一般的です。

小規模のM&Aでは1~3人で法務DDを行います。新聞の一面を飾るような大規模のM&Aでは数十人体制で法務DDを実施することもあります。

法務DDの実施期間は標準的には1ヶ月程度です。

規模や影響力の大きい上場会社のM&Aでは、2~3ヶ月かけて法務DDを行うこともあります。

DD(デューデリジェンス)項目の一つ

DD(デューデリジェンス)とは、M&Aの実施にあたり、関連当事者が意思決定に影響を及ぼす種々の問題点を調査することです。

DDの語源は英語でDue(当然の)Dilligence(努力・勤勉・注意)です。

M&Aを実施する際に、相手方を調査することは当事者にとって当然尽くすべき努力ということです。

略して「デューデリ」と言うこともあります。

DDには、

  • ビジネス(事業)DD
  • 財務DD
  • 会計DD
  • 税務DD
  • ITDD
  • 不動産DD
  • 環境DD
  • 人事労務DD

などがあります。

法務DDはDD項目の1つで、法律的な見地から行うDDです。

各DDは公認会計士や司法書士等それぞれの分野の専門家が担当します。

法務DDは法律のプロである弁護士に依頼されることが多いです。

法務DDの流れ

法務DDの流れは、M&Aの規模や当時会社の種類によって異なります

一般的には、

  1. 調査範囲の検討
  2. 資料開示請求
  3. 資料の検討
  4. インタビュー
  5. 現地調査
  6. 法律上の問題点の検討
  7. レポートの作成・報告

といったプロセスで行われます。

法務DDの結果、大きな法律問題が顕在化した場合、M&Aを中止する(ディール・ブレイク)することもあります

調査範囲の検討

効率的に法務DDを行うため、事前に調査範囲を検討します。

確実にM&Aを成功させるためには、あらゆる事項を調査する必要があります。

他方で、調査事項が増えるとその分コストもかかります。

そこで、予算や時間、ニーズに合わせて調査する範囲を検討します。

特に問題になるのは、

  • 子会社や関連会社も調査するか
  • 知的財産や動産も調査するか
  • 外国法について調査するか

などです。

資料開示請求

買い手企業から売り手企業に対して、調査対象となる資料の開示を請求します。

必要な資料に漏れが生じないように、リストを作成して開示請求します。

開示対象となる資料は、

  • 対象会社の定款
  • 登記
  • 就業規則
  • 契約書

など様々です。

実務的には対象企業や法律事務所に設けられたデータルームという部屋に資料一式を集める方法で開示されることが多いです。

秘密情報をデータルーム内に留めるのは外部漏洩を防ぐためです。

資料の検討

開示された資料を検討します。

開示された資料を精査することをデスクトップDDといいます。

資料は膨大な量となるので、弁護士が手分けして担当することが多いです。

小規模のM&Aでは、資料の検討のみで法務DDが完了することもあります。

資料を検討する過程で追加で必要となった資料の開示請求・検討も行います。

インタビュー

対象会社の役員や従業員にインタビューをします。

開示された資料のみでは分からなかった事項や疑問が生じた事項について詳しく聴取します。

特に、M&Aの意思決定者である経営者にインタビューすることが重要です。

経営者に対するインタビューを、マネジメント・インタビューといいます。

専門的な事項については調査事項に精通している人を対象にインタビューを行います。

代表的なインタビュー対象者と内容は、

  • 人事部:労務
  • 総務部:法定備蓄書類
  • 法務部:契約書
  • 経理部:計算書類

などが挙げられます。

公認会計士や税理士などの他の専門家と連携しながらインタビューを進めていきます。

現地調査

調査対象会社に直接訪問して社外への持ち出しが禁止されている機密書類を調査します。

これを、現地調査や現地DDといいます。

事前に開示されていない重要な文書を調査することで、重大な問題点が発見されることもあります。

法律上の問題点の検討

文書やインタビューの結果得られた情報を元に、法律上の問題点の有無・内容を検討します。

問題点が発見された場合は問題が及ぼす影響・その問題の重大性を判断し、解決方法を探ります。

レポートの作成・報告

法律上の問題点に関する検討結果をレポート(報告書)にまとめます。

小規模のM&Aでは数十ページに収まることが多いです。

上場会社のM&A等大規模のM&Aでは、数百ページに上ることもあります。

作成したレポートをもとに法務DDの結果を会社に報告します。

会社から希望が出て、追加の調査を行うこともあります。

法務DDの目的

法務DDの目的は、M&Aによって不利益を被ることを防止して、確実に利益を得ることにあります

沢山の情報を収集・分析して、M&Aに影響を及ぼす重要事項の有無を確認します。

法務DDの目的は、

  • 買収対象事業継続の障害となる問題点
  • 買収対象企業の価値に影響を与える問題点
  • M&A実行を阻害する問題点
  • M&Aのスキームの可否

を発見・確認するためです。

買収対象事業継続の障害となる問題点

買収した事業が継続できなければ、M&Aに投下した資本を回収することができません。

事業が中断されるリスクがあるかを確認して、事業の将来生を判断します。

例えば対象企業が競業避止義務を負っている場合には、想定している事業の継続が不可能になります。

買収対象企業の価値に影響を与える問題点

買収した企業の価値が買収価格に比して低ければ、M&Aによって利益を得ることができません。

買収対象企業の収益性や資産状況を確認します。

例えば、対象会社が訴訟で敗れて重大な経済的損失を受けるおそれがある場合や対象企業が販売している商品がリコールの対象になる場合には、買収価格を引き下げることを検討します。

M&A実行を阻害する問題点

M&Aが法規制に反していれば実行することができません。法務DDによって、M&Aを適法に実行できるかを確認します。

例えば、独占禁止法に反していないかが重要なポイントとなることが多いです。

治癒することが不可能な重大な法律上の問題点が発見された場合もM&Aを断念することになります。

例えば、株式の譲渡を受けるはずが、売主が実は対象会社の株式を保有していなかった場合には、M&Aを中止せざるを得ません。

M&Aのスキームの可否

M&Aのスキームには株式の取得の他に、

  • 合併
  • 会社分割
  • 株式交換
  • 株式移転
  • 事業譲渡 など

様々なものがあり、スキームごとに異なる法律上の制限や手続があります。

法務DDによって、想定していたスキームを利用できるかを確認します。

法務DDの調査項目

法務DDの調査項目は多岐にわたり、案件によって無数の調査項目があります。

ここでは、代表的な調査項目を紹介します。

法務DDの主な調査項目は、

  • 設立・会社組織
  • 株主・株式
  • 関係会社
  • 財産
  • 知的財産権
  • ファイナンス・貸付借入・保証
  • 取引契約
  • 人事・労務
  • 訴訟・紛争・不祥事
  • 許認可
  • 環境問題
  • コンプライアンス

などがあります。

設立・会社組織

設立・会社組織に関する法務DDの目的は、買収対象会社が有効に設立されて、将来も解散することなく存続できるかどうかを確認することにあります。

設立・会社組織に関する法務DDの調査対象は、

  • 設立手続に関する書類
  • 定款
  • 社内規則
  • 株主総会議事録・取締役会議事録・経営会議議事録
  • 登記
  • 会社概要

などです。

事業譲渡や会社分割などの事業のみを取得するスキームを用いる場合は、設立・会社組織に関する法務DDは不要です。

相手方の会社自体を買収するわけではないからです。

株主・株式

株主に関する法務DDの目的は、売主が株式を法律上保有している株主であるか、紛争が生じうる株主がいるかを確認することにあります。

株式に関する法務DDの目的は、売買の対象となる株式の適法性・有効性や種類・権利内容、株券の状況を確認することにあります。

株主・株式に関する法務DDの調査対象は、

  • 株主名簿
  • 株券
  • 新株予約権原簿
  • 登記
  • 定款
  • 名義株主
  • 敵対的少数派株主

などです。

株式譲渡のスキームを用いる場合に特に重要な法務DD項目となります。

関係会社

関係会社に関する法務DDの目的は、買収対象企業と関係会社との関係を整理して把握し、法律上の問題点を顕在化させることにあります。

関係会社に関する法務DDの調査対象は、

  • グループ会社・親会社・子会社の存否
  • 関係会社の組織
  • 関係会社との契約
  • 関係会社との紛争
  • グループ会社内のグループ規定

などです。

上場会社のM&Aでは関係会社が多数存在することが多く、重要な調査項目となります。

財産

財産に関する法務DDの目的は、買収対象企業の保有財産に対する権限の有無を確認し、M&A後も権利行使を継続できるかを確認することにあります。

財産に関する法務DDの調査対象は、

  • 所有不動産
  • 貸借不動産
  • 動産
  • リース契約
  • 担保権
  • 対抗要件
  • 登記

などです。

第一に、対象会社が不動産に対する使用権限を有しているかどうかを把握する必要があります。

賃借不動産の調査においては、チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項の有無の確認が重要です。

チェンジ・オブ・コントロール条項とは、M&Aによって会社の経営権が移動した場合には、一方当事者が契約を解除できるものとする約定です。

チェンジ・オブ・コントロール条項があった場合、M&A後に賃貸人から契約を解除される可能性があるので注意が必要です。

知的財産権

知的財産権に関する法務DDの目的は、買収対象企業が保有する知的財産権の権利関係・権利侵害の有無・管理状況を確認することにあります。

知的財産権に関する法務DDの調査対象は、

  • 商標権
  • 特許権
  • 意匠権
  • 実用新案権
  • 著作権
  • ライセンス契約

などです。

知的財産権のプロフェッショナルである弁理士と連携して調査することもあります。

ファイナンス・貸付借入・保証

ファイナンス・貸付借入・保証に関する法務DDの目的は、買収対象企業の資産状況を把握して、買収対象企業の価値を正しく評価することにあります。

ファイナンス・貸付借入・保証に関する法務DDの調査対象は、

  • 金銭消費貸借契約書
  • 銀行取引約款
  • 抵当権
  • 保証契約
  • 社債
  • 所有権留保契約
  • 債権者・債務者

などです。

事業譲渡や会社分割のスキームを採用する場合は必ずしも債務を承継するとは限らないので、負債に関する調査は重要ではありません。

取引契約

取引契約に関する法務DDの目的は、買収対象企業の契約に存在する法律上の問題点を発見することにあります。

例えば、契約の有効性や適法性、契約から生ずる権利関係の公正性に疑義がないかを審査します。

取引契約に関する法務DDの調査対象は、

  • 売買契約、賃貸借契約等の各種契約
  • 契約の当事者
  • 契約書
  • 債権・債務

などです。

ここでも、チェンジ・オブ・コントロール条項の存否が重大なポイントとなります。

株主や関連会社との契約では、不利な契約をしている可能性が高いので、注意が必要です。

人事・労務

人事・労務に関する法務DDの目的は、M&A後に人材を確保できるか、買収対象会社の労働契約・委任契約に違法な点がないかを確認です。

人事・労務に関する法務DDの調査対象は、

  • 役員名簿
  • 役員報酬
  • 委任契約書
  • 従業員名簿
  • 就業規則
  • 賃金規則
  • 給与台帳
  • 労働協約
  • 労使協定

などです。

働き方改革によって労働者の労働条件や労働環境にかかる規制が強化されているので丁寧な調査が必要です。

事業譲渡のスキームを使う場合、雇用契約が当然に買い手に承継されず労働者の個別同意が必要となることに注意が必要です。

訴訟・紛争・不祥事

訴訟・紛争に関する法務DDの目的は、M&A実行を断念せざるを得ないような訴訟・紛争を発見することやM&A後に生じうる訴訟・紛争を予測することです。

訴訟・紛争に関する法務DDの調査対象は、

  • 訴訟資料
  • 内容証明郵便
  • クレーム
  • 監査報告書

などです。

買収対象会社が敗訴して莫大な賠償金を支払う蓋然性がある場合や不正がバレて買収対象会社の信用が著しく低下する場合などには、M&Aを中止することもあります。

許認可

許認可に関する法務DDの目的は、買収対象企業が事業継続に必要な許認可を適法に取得しているかを確認することにあります。

許認可に関する法務DDの調査対象は、

  • 必要な許認可を取得しているか
  • 許認可の停止・取消しがありうるか
  • 所轄官庁から指導・勧告を受けたことがあるか

などです。

M&A実行後に、買収した事業を継続できない事態に陥ることがないようにする必要があります。

環境問題

環境問題に関する法務DDの目的は、環境法上のリスクを把握することにあります。

環境問題に関する法務DDの調査対象は、

  • 環境汚染をしていないか
  • 賠償金支払債務がないか
  • 廃棄物・有害物質の処理方法

などです。

M&A実行後に、汚染の除去や損害賠償の義務を負うことがないようにする必要があります。

コンプライアンス

コンプライアンスに関する法務DDの目的は、企業の公正を確保することにあります。

コンプライアンスに関する法務DDの調査対象は、

  • 内部通報
  • 内部統制システム
  • 反社会的勢力との関係

などです。

企業を買収することによって、自らのレピュテーションが下がることを予防する必要があります。

法務DDを実施するタイミング

法務DDはM&Aを検討する初期の段階で行われます。

具体的には、秘密保持契約を締結した直後に法務DDを開始します。

なぜなら法務DDの際に対象会社から機密情報も含めて資料を開示してもらうからです。

なお、秘密保持契約とは法務DDを通じて知った相手方の秘密を他に漏らさないことを約する契約です。

法務DDの目的はM&A実行の最終的な意思決定のための問題点の発見にあるため、最終的なM&A契約締結前に完了するようにします。

法務DDの結果を踏まえて最終的にM&A契約を締結します。

まとめ

  • 法務DDとはM&Aに伴う当時会社による法律上の問題点の調査のこと
  • 法務DDでは書類やインタビューによって情報を収集する
  • 法務DDの目的はM&Aを成功させることにある
  • 法務DDの調査項目は企業に関するあらゆること
  • 法務DDはM&Aを検討する最初の段階で開始して最終意思決定前に完了する

以上、法務DDについて、前提知識から実務的な内容まで説明しました。

グローバル化や不況の中で、M&Aの需要はますます上昇すると考えられ、弁護士にとって法務DDの知識は現代社会では必須と言えるでしょう。

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