業界トピックス2020.10.25
弁護士のM&Aにおける役割と業務内容

現在の企業において、M&Aは特別なものではなく、当たり前の企業戦略の手段の一つとなっています。

M&Aは会社組織をガラリと変えてしまうため、高度な法的手続きを要します。

したがって、M&Aには法務アドバイザーとして弁護士の協力が必要不可欠です。

この記事では、M&Aにおける法的手続き及び弁護士の役割を紹介します。

M&Aとは企業間の合併や買収のこと

M&A(Mergers and Acquisitions)は企業間の合併(Mergers)や買収(Acquisitions)を意味します。

M&Aは、事業の多角化を目的とした資本提携など様々な目的のために用いられます。

近年ではM&Aは、大企業だけでなく中小企業でも頻繁に行われるようになりました。

サラリーマンとってもM&Aは身近なものになりつつあるでしょう。

M&Aにおける買い手側の目的

M&Aは経済的な目的や動機があって初めて成立します。

M&Aの買い手側の主な目的は「時間を買う」という点にあります。

企業が成長するためには、社員の雇用、社員の教育、会社設備の新設、会社組織の構築等、様々なノウハウを必要とします。

このようなノウハウを一から貯蓄することは膨大な時間を要します。

そこで、買い手側はM&Aを利用して、既に当該分野でノウハウを確立している企業を買収し合併等することで、短期間で企業を成長させることができます。

この他にも、M&Aの目的として投資目的や業界の勢力図の再構築といったものが考えられます。

M&Aにおける売り手側の目的

M&Aの売り手側の主な目的は、

  • 事業の整理
  • 経営資源の集中
  • 利益の獲得

です。

複数の事業を展開している企業では事業ごとのバランスが崩れ、経営資源の分配が困難となる場合があります。

そこで企業の一部事業だけを切り出して、買い手に売ることで事態を解消することができます。

また、譲渡会社は合併の対価として金銭を得る場合が多いです。譲渡会社は資金を得て、新たな投資を行うことにより企業の成長の糧とすることができます。

M&Aを得意とする法律事務所

M&Aを行う際、企業はまず顧問先の法律事務所に相談します。

顧問先の法律事務所ではM&Aの規模や技術的に受任が困難と判断した場合は、四大法律事務所に依頼することが多いです。

したがって必然的に四大法律事務所で扱うM&Aの案件はスケールが大きくなり、その分ノウハウも集約されています。

Bloomberg社の2019年に日本のM&Aの案件で法務アドバイザーを務めた法律事務所の案件数ランキングは以下の通りで、四大法律事務所が多くのシェアを占めていることがわかります。

アドバイザー 案件数 シェア率
森・濱田松本法律事務所 19%(1位) 20.18%(3位)
西村あさひ法律事務所 161(2位) 24.56%(1位)
長島・大野・常松法律事務所 157(3位) 20.93%(2位)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 100(4位) 10.98%(4位)

引用:Bloomberg「日本M&Aマーケットレビュー アドバイザー・ランキング 2019年

日本を代表とする大企業のM&Aは、四大法律事務所による法的サポートを何らかの形で受けていると言っても過言ではないでしょう。

M&Aにおける弁護士の役割

M&Aといっても、その取引の手法(ストラクチャー)は多種多様です。

具体的なストラクチャーには、

  • 株式譲渡(株主が保有する株式を買い手に譲渡することで、会社の経営を承継させる行為)
  • 事業譲渡(特定の事業のみを売買する行為)
  • 会社分割(会社が当該事業に関して有する権利義務を他の会社に包括的に承継させる行為)
  • 合併(売り手企業と買い手企業が1つの会社となる行為)
  • 株式交換(会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させる会社法上の組織再編行為)
  • 株式移転(2社以上の会社がその発行済株式の全てを会社に取得させる行為)
  • 第三者割当の引受け(特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与して、新株を引き受けさせる行為)

があります。

実務においてはこれらの手法をいくつも組み合わせた上で、複雑なストラクチャーが形成されます。

また、ストラクチャーごとに金融商品取引法、独占禁止法、会社法の規制が異なるため、複雑なストラクチャーになればなるほど必要な手続も膨大になっていきます。

典型的なストラクチャーとしては、会社がM&Aの対象事業を新設分割で切り出した後に新設会社の新株式を株式譲渡により全部取得する方法があります。

このストラクチャーは、会社分割と株式譲渡が組み合わされることによって構成されています。

顧客がいかなるストラクチャーが最も適しているかを顧客自身で見極めるのは困難です。そのため、弁護士は顧客にとってベストのストラクチャーを提案するために、重要な役割を担っています。

M&Aにおける弁護士の存在はなくてはならないものと言えるでしょう。

M&Aで弁護士の行う業務

ここでは、M&Aで弁護士の行う具体的な業務内容について順を追って説明します。

まずM&Aは次の3つの段階によって構成されています。

  1. 企業又は事業の売却や買収をどの企業との間で行うか選定
  2. 当該取引相手と最終的にいかなる条件で契約を締結するかを判断
  3. 交渉した契約の内容を実行させる

各プロセスにおける具体的な弁護士の業務を以下で紹介します。

企業又は事業の売却や買収をどの企業との間で行うか段階

企業又は事業の売却や買収をどの企業との間で行うかという選定の段階において、弁護士は、FA(フィナンシャルアドバイザー)から得た情報に基づいて、

  1. ティーザー
  2. 秘密保持契約
  3. 情報パッケージの交付
  4. バリュエーション
  5. 基本合意書

に関連する業務を順に行います。

それぞれの代表的な業務内容については以下の表を参照ください。

選定段階 売主側の業務内容 買主側の業務内容
ティーザー FAの雇用、買主候補の募集・調査 譲渡会社との買収の実現可能性の調査
秘密保持契約 秘密保持契約の作成及び締結
情報パッケージの交付 売主側のフィナンシャルアドバイザー(FA)による売主側の一般的情報を記した資料の交付
バリュエーション 売主側のFAによって交付された情報パッケージに基づく売主側の評価
基本合意書 基本合意書の作成及び締結

※ティーザーとは、売却対象となる企業または事業について対象企業を特定できない程度に買収スキームをまとめた匿名の企業概要書のことをいいます。

当該取引相手と最終的にいかなる条件で契約を締結するかを判断

対象会社の選定ができ、基本合意書の締結まで至った後の段階では、最終的な契約の締結(クロージング)に向けて契約を締結するか、又は、しないかを決定します。

かかる段階において、弁護士は、

  1. 法務DD(デューデリジェンス)の実施
  2. 契約のクロージングに向けた契約交渉

に関連する業務を順に行います。

▶法務DD(デューデリジェンス)とは、意思決定に影響を及ぼす法律上の問題点・リスク・トラブルを調査すること

交渉段階 売主側の業務内容 買主側の業務内容
法務DD(デューデリジェンス)の実施 譲渡会社のバリュエーションの評価、譲渡会社の法的リスクの有無に関する調査
契約のクロージングに向けた契約 最終的な買収価格と買収条件の交渉及び締結

※DDとは、投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することを意味します。

交渉した契約の内容を実行させる

最終的な買収価格と買収条件で契約当事者の同意を得た後、契約で定められた内容通りの取引の実行が行われます。これをクロージングといいます。

クロージングに際して、弁護士は、

  1. クロージング準備
  2. クロージング
  3. ポストクロージング
  4. 経営統合

に関する業務を行います。

契約の実行段階 売主側の業務内容 買主側の業務内容
クロージング準備 クロージングに向けた手続きの最終確認
クロージング 買収にあたって必要な書類の交付 買収価格の提供
ポストクロージング クロージング後の株主総会の開催に関するサポート

コベナンツの実施

経営統合(PMI) クロージング後の会社組織の整備

M&Aをサポートするために必要な弁護士の素養

M&Aに強い弁護士はどのような特徴を有しているのでしょうか。ここでは、M&Aをサポートするために必要な弁護士の素養を紹介します。

M&Aにおける弁護士の主な役割は、

  • 各種文書の作成
  • ストラクチャーの検証
  • 法務DDの実施
  • 契約の交渉

です。

M&Aを実施する企業は何らかの旨みや目的があってM&Aを行います。

その旨みや目的を実現すべく相手方企業にはリスクを隠したまま取引が行われ、M&Aの実施が結果として企業に悪影響を及ぼす可能性がないとは言い切れません。

M&Aにはリスクも伴います。

したがってM&Aの実行は企業価値に大きく影響するため、経営者が慎重な判断ができるように、当該M&Aによるシナジーの程度やリスク負担の程度を経営者に提示する必要があります。

経営者に対して、このような法的リスク等を適切に分かりやすく助言するためのコミュニケーション能力が弁護士には必要です。

また、各種契約書の作成はまさに法的リスクの顕在化を防止するために、弁護士の腕が試される所です。

M&Aにおけるリスクを未然に予測できる豊かな想像力が弁護士には要求されます。

まとめ

  • M&Aにおける弁護士の役割は法的観点から企業価値を適切に評価する点にある
  • 弁護士はM&Aに関する全ての手続きに関与する
  • M&Aを成功させるには弁護士の高度な法的知識と経験が必要

以上、弁護士のM&Aにおける役割や実務内容を解説しました。

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